はじめに:尿もれと骨盤底筋との関係

尿もれの多くは骨盤底筋のゆるみが原因

「トイレのあとにちょっと漏れる」「くしゃみをした瞬間に出てしまう」――そんな経験をしたことのある女性は少なくありません。2021年に小林製薬が実施した調査によると、40歳代から70歳代以上の日本女性の約22%、すなわち約5人に1人が尿もれを経験しています。
尿もれの多くは、骨盤底筋と呼ばれる筋肉のゆるみが原因です。骨盤底筋は膀胱や子宮、直腸などを下から支えるハンモックのような構造を持つ筋肉群で、加齢、出産、肥満、慢性的な咳などの影響で弱まることがあります。この筋肉が十分に働かないと、ちょっとした衝撃や腹圧の変化で尿が漏れてしまうのです。

正しいトレーニング方法が分からないことが、在宅骨盤底筋トレーニングの課題

そんな骨盤底筋を鍛える方法として知られているのが、骨盤底筋トレーニングです。「ケーゲル体操」とも呼ばれ、自宅でも行える効果的な運動として推奨されています。しかし、実際に自分で正しくできている人は意外と少ないのです。ある研究によると、医師や理学療法士から口頭で指導を受けた女性のうち、正しく骨盤底筋を収縮できた人は49%です。逆に、間違った動きをして尿もれを悪化させてしまうケースが25%ありました。

正しい骨盤底筋トレーニングのためには、骨盤底筋訓練器具が効果的

骨盤底筋トレーニングを自分で正しく行える商品が最近幾つか販売されています。骨盤底筋訓練器具と呼ばれている機器です。ケーゲルベルとイーケーゲルについては、以前このブログで紹介しました。いずれも、日本で医療機器として販売されています。

これらの骨盤底筋訓練器具は本当に尿もれに効果があるのでしょうか、気になるところです。

日本では、まだ販売されていませんが、欧州及び米国では、「Perifit(ペリフィット)」という商品名の骨盤底筋訓練器具が販売されています。トレーニング原理はケーゲルベルやイーケーゲルと同じです。使用方法は簡単で、専用のセンサー付きプローブを腟内に挿入し、スマホゲームをプレイするような感覚で、楽しく、正確に、継続的に骨盤底筋トレーニングを行えます。自宅でも、正確な骨盤底筋運動を身につけるサポートをしてくれます。

Perifitは次のような特徴を持った医療機器です。

Perifitの特徴
  1. FDA認可医療機器: Perifitは米国FDA(米国食品医薬品局)により、女性の腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁および混合性尿失禁の治療に使用可能な機器として認可されています。
  2. ゲーム化されたユーザーインターフェース: トレーニングは短いビデオゲームの形式で行われます。ユーザーは骨盤底筋の収縮・弛緩を操作としてゲーム内の動作をコントロールし、設定された収縮、弛緩パターンに合わせてプレイする仕組みです。このゲーム感覚のトレーニングが、PFMTの継続を促す魅力的で楽しい方法となる可能性があります。
  3. 誤った動作の判別: 先行研究では、Perifitのセンサーが「正しい骨盤底筋の収縮」と「押し出すような誤った動作」を区別できることが示されており、在宅でのPFMTを正しく行うための有用なツールとなる可能性が示唆されています。

疑問:Perifitは実際の効果があるのか

本当にPerifitを使うことで尿もれは改善するのでしょうか?
この疑問については、これまで十分に明らかになっていませんでした 。
そこで、Perifitの実際のユーザーから得られたデータに基づき、自宅でのトレーニングが尿失禁症状の軽減に有効であるかを評価することを目的として、調査が行われました。調査の内容は、次の論文で発表されています。

参考文献:

Erica T. Perrier, Louise Aumont. Pelvic Floor Muscle Training Using the Perifit Device for the Treatment of Urinary Incontinence: A Pragmatic Trial Using Real-World Data. Women’s Health Reports 2024; 5.1: 250–258

今回は、この調査結果をもとに、尿もれに対する骨盤底筋訓練器具Perifitの効果を詳しく紹介します。

尿もれに対する骨盤底筋訓練器具Perifitの効果

対象者とデータ収集

対象者とデータ収集
  • 対象者: 尿失禁を有する6,060名の女性。女性の年齢は18歳から87歳の範囲で平均年齢は45歳でした。
  • データ収集方法: Perifitアプリに組み込まれた任意の症状アンケートを使用しました。ユーザーは、トレーニング開始前(T1)と、トレーニング中の特定の時点(ゲームプレイ回数が一定の節目に達した時)で、このアンケートに回答しました 。
  • 症状評価ツール: 尿路疾患の重症度を評価するツール「Urinary Symptom Profile(USP)」を用いました。腹圧性尿失禁および切迫性尿失禁の合計スコアを尿失禁症状スコアとして算出しました。スコアが高いほど症状が重いことを示します。
  • 匿名化: 研究チームがユーザーに直接連絡することはなく、解析前にデータはすべて匿名化されました。これは、試験結果に対する高い信頼性を保証します。

測定のタイムポイント

症状アンケートの回答時点は、骨盤底筋トレーニング開始前(T1)に加え、以下の3つの時点が設定されました。

タイムポイント
  • T1:トレーニング開始前
  • T2:ゲーム40〜60回完了後(平均 51 ± 5 回)
  • T3:ゲーム90〜120回完了後(平均 105 ± 8 回)
  • T4:ゲーム280〜300回完了後(平均 301 ± 11 回)

試験結果は次のとおりです。

試験結果
  • 結果①:骨盤底筋トレーニング開始前の症状スコアは8.4点でした。トレーニング開始から約6週間(T2)で、71%の女性が症状の改善を実感しました。尿失禁症状スコアは6.3点に下がりました。
  • 結果②:約2ヵ月後(T3)には、79%の女性で改善が確認され、尿失禁症状スコアは5.5点まで低下しました。
  • 結果③:約4ヵ月後(T4)には、85%の女性で改善が確認され、尿失禁症状スコアは4.6点まで減少しました。つまり、約4ヵ月の自宅トレーニングで、症状の重さがほぼ半分まで減ったのです。

この結果から、自宅で継続的に骨盤底筋トレーニングを実施した女性の多くが、臨床的に意義のある症状の軽減を実感していることが示唆されます。トレーニング期間が長くなるにつれて、改善を報告する人の割合は増え、尿失禁症状スコアも減少しました。

誰に効果が出やすいのか。 改善に影響を与えなかった要因

興味深いことに、この研究では年齢、閉経の有無、出産からの経過期間などは、改善の度合いに影響を与えませんでした。
つまり、若い女性から高齢者まで、幅広い層で効果が期待できるということです。また、初期の症状が重い人ほど改善しやすい傾向がありました。
「尿もれがつらくて外出が不安」「夜中に何度もトイレに起きる」――そんな方ほど、Perifitによるトレーニングで生活の質が大きく向上する可能性があります。

まとめ

研究の重要なポイントまとめ
  1. 有効性: 骨盤底筋トレーニングの継続により、尿失禁症状スコアは段階的に減少しました。
  2. 継続の重要性: 50回のゲーム完了後(約6週間)で71%が改善を報告したのに対し、300回のゲーム完了後(約4か月)では85%が改善を報告しており、継続的なトレーニングがより高い改善率につながることが示されました。
  3. 年齢を問わない有効性: 年齢や閉経状態、出産からの経過時間といった要因は、尿失禁症状改善に影響を与えませんでした。これは、Perifitがあらゆる年齢層の女性にとってアクセスしやすい治療選択肢となる可能性を示しています。
  4. 在宅自己管理への可能性:自宅で自発的にトレーニングを行ったユーザーのデータに基づいているため、Perifitは女性が尿失禁を自己管理するための有望なツールとなり得ることを示しています。

今回は骨盤底筋訓練器具の一つであるPerifitについて紹介しました。この製品は日本で販売されていませんが、別の骨盤底筋訓練器具であるケーゲルベルとイーケーゲルは日本で販売されています。トレーニング原理はPerifitと同じなので、同じように効果があることが期待できます。イーケーゲルの価格は以下のサイトで比較してみてください。