「トイレから出た直後に、下着が少し濡れている」「座ったときにポタッと落ちる」。――この現象は、医学的には排尿後尿もれ、あるいは排尿後尿滴下(post-micturition dribble)と呼ばれます。

排尿後尿もれは男性に特有の現象です。命に関わるものではありませんが、仕事中の不快感や衣服の汚れ、ニオイの不安など、生活の中ではかなり煩わしく、清潔感や自信の低下にもつながります。

今回は、泌尿器科専門医・古屋聖児氏らが実施した調査結果(泌尿器科紀要, 1997)をもとに、20〜50代男性の排尿後尿もれの実態、原因、そして今日からできる対策を紹介します。

この論文は排尿後尿もれの発生率や原因について詳細に調査されており、古いですが良い論文だと思います。特に、尿もれの原因についての考察に関しては、私自身、納得することがありました。排尿後尿もれに悩んでいる男性にとっては、とても参考になるのではないでしょうか。

グーグルで検索すればヒットするので、興味がある方は読んでみてください。

参考資料: 古屋 聖児ら(1997):20歳から50歳代の成人男子における排尿後尿洩れの発症率. 泌尿紀., 43, 407-410

どれくらいの男性が経験しているか

1995〜1996年に北海道および東京の企業に勤務する20〜50代の一般事務職男性2839人を対象に、無記名のアンケート調査が行われました。対象は、薬品卸業会社、製薬会社、映像制作関連会社の社員などで、回収率は93.5%でした。

排尿後尿もれの発生率
  • 全年代の排尿後尿もれの発生率は17.1%でした。およそ6人に1人が排尿後尿もれを経験しています。発生率は年齢とともに増え、20歳代で11.5%、30歳代で13.2%、40歳代で19.4%、50歳代で26.9%という結果でした。
  • 「ほとんど毎日」経験する恒常的な尿もれは、排尿後尿漏れ経験者の14.0%でした。全対象者の約2.3%で、約50人に1人の割合でした。発生率は若年層よりも高齢層の方が高く、20歳代で12.1%、30歳代で3.7%、40歳代で、16.7%、50歳代で20.0%という結果でした。
  • 尿もれの程度は、排尿後尿もれ経験者の93.7%は「パンツに滲みがつく、濡れる」、21.9%は「ズボンに滲みがつく、濡れる」でした。両者とも年齢とともに増えました。

起こりやすいタイミング

尿もれのタイミング
  • 「パンツにしまった直後」が各年代を通じて最も多く、75.8%~91.0%でした。20歳代が最も多く(91.0%)、高齢になるにつれて、減少しました。
  • 次いで、「トイレから歩いて出た直後」は22.9%~49.0%で、高齢になるにつれて増える傾向がありました。
  • 「椅子に座ったとき」「腰をかがめたとき」も少数ながら、みられました。

排尿後尿もれの原因

排尿後尿もれは、膀胱の病気ではなく、尿道の一部に残るごく少量の尿が原因です。具体的には、陰茎の根元にある球部尿道に尿が残り(下図を参照)、座位や体の前屈によって圧迫され、尿が押し出されて漏れてしまうのです。

古屋氏らの分析によれば、この「球部尿道内残尿量」はわずか0.2〜1.0mLです。しかし、それでも下着にしみを作るには十分な量です。
この現象の背景には、次のような原因が推定されています。

  1. 球部尿道内残尿
    排尿後尿もれは、主に球部尿道内残尿によって引き起こされます。この尿道内残尿が発生する原因として、以下のような要因が推定されています。
球部尿道内残尿の原因
  • 球部尿道海綿体筋の収縮不全
  • 外尿道括約筋の機能不全

年齢が高くなるにつれて尿もれの頻度や程度が強くなるのは、加齢による球部尿道海綿体筋や外尿道括約筋の機能低下のためと推定されています。

2. 尿道の器質的疾患:稀ではありますが、排尿後尿もれが次のような尿道の器質的疾患で起こることがあります。

尿道の器質的疾患
  • 尿道狭窄による球部尿道の器質的な憩室様拡張
  • 経尿道的前立腺切除術術後の外尿道括約筋障害
  • 膀胱頸部硬化症

3. 排尿の仕方

病態ではないものの、以下のように排尿の仕方が原因になる場合があります。

尿もれの原因となる排尿の仕方
  1. 10〜20代の男性の多くが、ズボンやパンツを下げ、前開きからではなくゴムの上から陰茎を出して排尿しています。
  2. このとき、パンツのゴムが陰茎の付け根を圧迫し、尿道を狭めてしまうことで、球部尿道に尿が残りやすくなるのです。
  3. ファッション性を重視した、前開きのないブリーフやトランクスが増えたことも、このような排尿スタイルを広めた一因と考えられています。

対策 ― 今日からできる改善法

尿もれの対策
  1. 会陰部圧迫(ミルキング):推奨されているのが会陰部圧迫です。排尿を終えたら、会陰部(陰嚢と肛門の間)を手指で圧迫して、球部尿道内残尿を機械的に排出させましょう(下図を参照)。
  2. 正しい排尿姿勢:パンツのゴムが陰茎の根元を圧迫しないよう、可能であれば前開きから排尿するようにしましょう。
  3. 球部尿道内残尿量はわずか0.2〜1.0mLです。リンクで紹介している失禁パッドも尿もれ対策として有用と思います。

まとめ:決して稀ではない、成人男性の悩み

まとめ
  • 排尿後尿もれは、20〜50代男性の6人に1人が経験する一般的な現象です。
  • 加齢や筋肉の衰えだけでなく、排尿の仕方でも起こりうるものです。
  • 決して「情けない」ことではなく、体の自然な変化の一部ととらえるべきです。
  • 会陰部圧迫排尿の仕方の工夫尿失禁パッドで、多くの場合は改善できます。